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【弁護士監修】賃料滞納トラブルと対応策

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弁護士 木村 俊将 法律事務所アルシエン

更新日:2020年07月07日
賃料滞納トラブルと対応策のアイキャッチ

1.はじめに

不動産の所有者や不動産管理会社から、賃借人による賃料滞納についてのご相談を受けることが多いです。お話を伺うと、驚くことに滞納の期間が6か月程度経過していることがザラです。滞納期間が1年5か月というケースもありました。仮に6か月分の賃料滞納を経てから賃借人との間の賃貸借契約を解除したとして、すぐに退去させられるでしょうか。

2.事例

賃貸人のXさんが賃借人のYさんにビルのワンフロアを貸していました。Yさんの業績不振から賃料等の支払いがストップしてしまいました。XさんはYさんに数回催告したのですが、「3か月後にまとめて払う」等と言われて契約の解除を躊躇していました。しかし案の定、賃料等の支払いはありませんでした。Xさんは契約の解除を決断しましたが、ご相談いただいたときには滞納期間が約7か月間経過していました。
 
Yさんに対して速やかに契約の解除を通知する内容証明郵便を送り、建物の明渡を求める裁判を起こしました。Yさんは裁判中も「数か月後にまとまったお金が入る」等の主張を繰り返しました。結局裁判所から判決が出るまでに約5か月かかりました(裁判を起しても月に1回位しか期日が入らず、時間がかかります)。

さらにその後、建物明渡の強制執行の手続に約2か月間かかったことから、Yさんの退去を完了させたときには滞納期間は約1年3か月を超えていました。Xさんは敷金として賃料の12か月分を預っていましたが、原状回復費用もかかりましたので、最終的に賃料の約10か月分の損害が生じてしまいました。 

3.迅速かつ厳しい対応をとることが損失拡大を防ぐ

このケースからもお分かりのとおり、契約解除の決断と対応の遅れが損失を拡大させます。賃貸借契約の解除条項には「2か月以上の賃料滞納」と定めていることが多いので、2、3か月以上の賃料滞納があれば、速やかに強い警告か解除通知を送ることをお勧めします。迅速かつ厳しい対応をとると、賃借人に対して賃貸人が「本気」であることが示され、賃借人に資力があれば危機感をもって支払を促すことになりますし、資力がなければ退去の協議や裁判を早期にスタートできるので、最終的な損害を軽減できます。

ちなみに、平成21年5月12日付けの国土交通省住宅局住宅総合整備課が作成・公表している「滞納・明け渡しを巡るトラブルについて」という資料によりますと、賃料滞納の発生から、訴訟を経て、明け渡しを完了させるまでの平均所要期間は8.5か月程度というデータがあります。解決までの所要期間はケースバイケースですが、平均でもこれくらい時間がかかる、という点は留意しておくべきです。

4.具体的な対処法

具体的に賃借人との間で締結された賃貸借契約を解除して、賃借人を退去させるまでの
手続の流れをご説明します。

(1)催告

賃料滞納が発生したら、当然ですが、賃借人に対して滞納の事実と金額を通知します。賃借人がうっかり支払いを失念しているだけなら、これで解決します。また、契約を解除する前提としてもこの催告が必要となります。
 
基本的にはまずは話し合いです。できれば裁判になるのは避けたいところです。多大な時間・労力・費用の消費を伴うからです。滞納が発生したら速やかに電話か書面で賃借人に滞納の理由や事情を聞きます。

賃借人の失職等、深刻な状態にあれば、同情を示しつつも引っ越しを勧め、滞納賃料の支払免除等を条件に早期に退去してもらうのがベストです。賃借人の移転先探索に協力する等の親身な対応も効果的です。

ここで重要なポイントは、「小さな約束」を課すことです。「もうすぐ払う」等と言ってズルズルと引き延ばされることが多いですので、必ず期限を定めて賃借人に何かしらの義務を課して、誠意のある人かを確認すべきです(例えば、2週間以内に移転先を探してもらう等)。小さな約束を守れない人は大きな約束も守れないです。

(2)解除通知

賃借人と連絡が取れないとか、非協力的で約束を守らず、建設的な話し合いが困難な場合には躊躇なく手続を進めましょう。前述のように対応が遅れると最終的な損失が拡大します。賃貸借契約を解除する旨の通知書を賃借人に送ります。

契約解除を通知する際、「本書到達後○○日以内に賃料の支払いがない場合には、本契約は自動的に解除されます」という内容にすると前述の催告を兼ねられます。のちに訴訟となった場合には、解除通知は重要な証拠となりますので、口頭ではなく、内容証明郵便で通知書を発送します。解除通知は賃借人に届いた時点で効力が生じます。

ここで一点注意が必要なのは、賃料滞納があったからといって必ず契約を解除できるわけではありません。賃貸借契約における当事者間には強い信頼関係が存在し、賃借人に一定の契約違反があっても、信頼関係を破壊するに足りない特段の事情がある場合には当該解除の効力は否定されます(いわゆる信頼関係破壊の法理)。

この点については数多くの裁判例があり、ケースバイケースですが、一般的に2か月程度の賃料滞納では契約を解除できない、と考えられています。

(3)訴訟提起

解除通知が賃借人に届いても滞納金の支払いがなければ、躊躇なく訴訟提起をしましょう。「賃借人は、賃貸人に対して建物を明け渡せ」という内容の判決をもらうための手続です。

前述のとおり、訴訟において、多少の賃料滞納では契約解除の効力が認められないことがあります。もっとも、仮に提訴時には2か月分の賃料滞納だったとしても、裁判期日を経ていくうちに滞納期間が長期化していくことが多いです。裁判所としては、滞納期間が長期化すれば、もはや当事者間の信頼関係は破壊されたものと判断する可能性が高いです。

賃貸人が訴訟を提起した途端、賃借人が急いで滞納分を全額支払ってくる場合もあります。この場合、実質的には滞納状態が解消されますので、無理に判決を求めずに和解を成立させることも選択肢の一つです。
  
和解の際、「賃借人が1か月でも賃料を滞納した場合には、賃貸人は催告なしに賃貸借契約を解除できる」という条件をつけられれば、次に滞納が生じたときには、裁判を経ることなく、迅速に強制執行の手続に進むことができます。つまり、建物明渡の判決を得られなくても、訴訟を提起したことが無駄には終わりません。

(4)強制執行

裁判所から、賃貸人の請求を認める判決(勝訴判決)が出たのに、それでも賃借人が居座っている場合には、次は強制執行の手続が必要となります。執行官と執行補助者(執行業務を得意とする引越し業者)が対象不動産に立ち入り、強制的に占有者を退去させます。

5.「もう少しで退去する」と言われたとき

賃借人による賃料滞納が重なり、物件からの退去を申し入れたところ、「3か月後に退去する」と言われたとき、賃貸人としてはどのような対応を採ることが最善の策でしょうか。

(1)とにかく書面化

賃借人の言うことを真に受けて口約束で済ませるのは一番リスクが大きいです。口約束のみですと証拠が残らないですし、「良い移転先が見つからない」等と言われてそのまま居座られる可能性が高いです。
  
とにかく書面化するのが重要です。賃貸人と賃借人との間の合意書を締結し、賃貸借契約を合意により解除することと、賃借人の退去期限を明記します。この合意書があれば、あとで訴訟になっても、解除の効力が否定されるリスクが軽減されます。
  
もっとも、賃借人に約束を破られたとき(期限内に退去しないとき)、結局裁判を提起して、強制執行を行う必要があります。

(2)即決和解手続の利用

そこで、「訴え提起前の和解手続」(いわゆる即決和解)という手続を簡易裁判所に申し立て、「和解調書」という書面を残すのが最善の手段です。和解調書には判決書と同様の効力が認められているので、賃借人が約束を破ったら、裁判を経ることなく、すぐに強制執行の手続きに入れます。費用と時間を大幅に節約できます。

即決和解を成立させるためには相手方の協力が必要ですので(期日に裁判所に出頭すること等)、「賃料を滞納しているのだから今すぐ裁判を提起することもできるが、和解手続に協力してくれれば裁判は起こさない」という言い方をして協力させましょう。場合によっては引越代の一部を負担する等の譲歩をしてでも即決和解を成立させたほうがよいです。裁判手続を省けるほうがはるかに有益ですので。

ちなみに、公正証書の作成は、金銭給付(お金の支払い)についてのみ強制執行の根拠としての効力が認められるので、「建物を明け渡す」という金銭給付以外の部分には強制執行の根拠としての効力は認められません。

6 最後に

賃借人による賃料滞納は、不動産賃貸業に必然的に存在するリスク要因です。滞納状態は放置しても改善されることはありません。滞納額は増加する一方ですし、対象不動産を占有されていることから新規の賃借人の募集もできないので収益が減ります。

入居審査を厳しくしたり、賃料保証会社を介在させることによりリスクを軽減できますが、実際に滞納が発生したら、迅速かつ厳しい対応をとることが肝要です。

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木村 俊将 (東京弁護士会所属 / 法律事務所アルシエン)

「弁護士資格取得後、興和不動産(現新日鉄興和不動産)の法務部にて、 個々の取引についてのリスクを分析したうえで 契約書類をチェック・修正し、取引を有利に進めるための助言を行う業務(取引推進支援業務)や、調停・裁判等の紛争に対応する業務(紛争解決支援業務)に従事。 「取引が無事に成立するようにサポートしたい」「不動産をめぐるトラブルを予防したい、解決したい」という思いから、平成23年1月に法律事務所アルシエンを開設。 以来、不動産問題に特化した弁護士として、主に不動産のオーナーや不動産事業者からの 法律相談に対応。最近では、共有不動産を巡るトラブルや相続がからむ不動産問題の解決に注力している。」

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