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権利証が見つからない!相続登記はできるのか?

更新日:2019年02月19日
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 父が亡くなり、不動産を相続することになった。
 不動産を相続するにあたって、法務局で相続登記をしようとしたけれど、どこを探しても権利証が見つからない!
 このままでは相続登記ができないかもしれない…。なんていう方もいらっしゃるのではないでしょうか?

 果たして権利証が無い場合は、きちんと相続登記ができるのでしょうか?

権利証がない場合、相続登記できる?

 結論から申し上げますと、権利証が無くても原則として相続登記をすることは可能です。

 権利証が必要な登記としては、
・売買や贈与などに関する所有権移転登記
・銀行でローンを組んだ際に不動産を担保として抵当権を設定する抵当権設定登記
・抵当権を抹消する抵当権抹消登記
 などが挙げられます。
 これは「権利証を持っている者=所有者」と考えられるため、権利証を提出する事により、“自分の不動産を手放します”“自分の不動産に抵当権を設定します”など、不動産の売買や贈与、抵当権設定などが所有者の意思によるものだと確認する為です。

 では、相続登記についても売買と同じく「所有権移転」の登記申請書を作成することになるのですが、相続登記には権利証が必要ないとされています。
 なぜなら、所有者である本人は亡くなってしまっているからです。つまり、所有者本人の意思ではないからというわけです。
 その代わりに、被相続人(亡くなった方)が生まれてから亡くなるまでのことがわかる戸籍謄本や遺産分割協議書によって、該当不動産の所有者が誰になるのかを証明する必要があります。

●権利証が必要な相続登記もある
   しかし、「原則として」必要がないわけですので、中には権利証が必要な相続登記もあります。それは、次のような場合です。
   ・戸籍上の住所と登記簿上の住所がつながらない場合
    例えば亡くなってしばらくしてから相続登記をしようとした場合に、必要な添付書類である住民票や戸籍謄本が取得できなくなっていることはよくあることです。
    住民票は死亡などにより除かれた時、また戸籍謄本も同様に除籍となった時から5年間となっていますので、その期間を超えてしまった場合は取得できません。
    そうなると、戸籍上の住所と登記簿上の住所がつながりません。
   その代わりに、権利証によって証明をしなければならないというわけです。

   ・遺言により法定相続人以外に相続させる場合
    この場合、登記申請は登記義務者(相続人全員もしくは遺言執行者)との共同申請となるため、権利証が必要となります。
    共同申請とは何かというと、例えば売買であれば不動産を取得する人と失う人がおり、それぞれが権利者・義務者として登記申請書に名前を連ねて登記をします。このように権利者と義務者が一緒に登記申請を行うことを共同申請と言います。共同申請には権利証が必要です。
    通常の相続の場合は、義務者である被相続人は亡くなっていますので、権利者である相続人が単独申請をすることになります。単独申請は利害関係が無ければ行うことができますので、不動産の住所変更なども単独申請ができます。単独申請には権利証は不要です。

    話を遺贈に戻しまして、遺贈の場合は法定相続人以外に遺産を分配するわけで、つまりは法定相続人がいるため利害関係があることになります。
    権利者は受贈者(遺贈を受ける人)、義務者は法定相続人全員(遺言執行者を決めている場合は遺言執行者)です。そのため、遺贈は共同申請となり、権利証が必要となるというわけです。

●権利証はあったほうが良い
  ちなみに、権利証はあるに越したことはありません。
  権利証があれば、被相続人がどのような土地を、どの位持っていたか、またその土地の面積などの詳細がすぐにわかりますので、登記申請書の作成がかなり楽です。
  また、場合によっては法務局で、確認のために、権利証があれば提出をして下さいと言われることもあります。
  権利証が無くても相続登記はできるけれども、可能であれば権利証を用意しておいた方が良いということですね。

そもそも権利証とは?

  権利証とは、売買や相続による所有権移転登記が完了したことを証する書類のことで、正しくは「登記済証」と言われます。
  しかし、現在はもう権利証は発行されていません。
  2005年に施行された、新不動産登記法により、権利証制度から「登記識別情報制度」に代わったためです。

  登記識別情報も、権利証同様、所有権移転登記が完了したことを証する書類なのですが、大きな違いとして、登記識別情報には12ケタのパスワードが記載されています。
  権利証は、権利証そのものが重要でしたが、登記識別情報ではこのパスワードが重要となります。パスワードが載った登記識別情報が家にあったとしても、このパスワードが盗まれていた場合、「パスワードを知っている者=不動産の所有者」となってしまいますので大変なことになりかねません。
  登記識別情報を受け取った際には、緑色のシールでパスワードを見ることができないように隠してあります。
  登記識別情報が必要な登記をするまでは、決して緑色のシールを剥がさずに、そのままの状態で厳重に保管するようにしましょう。

  さて、記事は引き続き「権利証」の記事としてお話をしていきますが、「権利証=登記識別情報」と読んでいただいて大丈夫です。

無くした権利証は再発行できる?

  権利証を再発行することはできません。
  権利証は所有権移転登記によって自分が不動産の所有者であることを証明するものです。また、不動産の売却や抵当権設定など、重要な登記にも使用されるものでもあります。
  人によっては “命の次に大事”と言われるほど大切な書類ですので、再発行できないのは不思議な事ではありませんね。
 
  さきほど、売買や抵当権設定登記には権利証が必要と言いましたが、権利証が再発行できないとなったら、一体どうすればよいのでしょうか?

権利証の代わりの手続き

 権利証が必要な登記をする場合に権利証が無い場合は、次の手続きをすることで登記手続きを進めることができます。

 ●本人確認情報
  司法書士や土地家屋調査士などの有資格者に本人確認として「本人確認情報」を作成してもらい、権利証の代わりにすることができます。
  本人確認情報の作成には約10万円の報酬を支払うことになります。
  何故こんなにも高額なのかというと、司法書士が「この人は本人で間違いありません」と証明することで、その司法書士は不動産数千万円~の責任を負うことになるからです。ハイリスクハイリターンといったところでしょうか。
  とは言っても、この本人確認情報を作成することにより、問題なく登記を完了させることができます。

 ●公証人の認証による本人確認情報
  本人確認情報は、公証人の認証でも作成可能です。
  公証人の認証による本人確認情報の作成は、認証費用3,500円で済みますので、司法書士などの有資格者に依頼するよりもかなり安く済みます。(司法書士の立会いをした場合は追加で費用が発生します。)
  しかし、やはりデメリットもあります。
  司法書士が書類を作成する際には、かなり詳細に本人確認をしますが、公証人の認証はとても簡単なものです。そのため、本人確認情報が無効になる可能性が高くなり、結果として、責任の所存が曖昧になってしまうことが考えられます。費用はかなり抑えられますが、リスクを負うことになります。

 ●事前通知制度
  事前通知制度は、法務局から登記義務者に対して「(登記識別情報の記載がありませんが)あなたが登記を行うので間違いないですか」という確認書類が送られてくるので、それに署名捺印をして返信をすることで権利証の代わりにすることができる制度です。
  こちらは料金がかかりませんが、登記申請書を確認した後、郵便でやり取りをするため、日数がかかってしまいます。また、回答の期限が2週間とされており、この期限内に法務局に書類が届かなかった場合、登記が取下げられてしまいます。
  取り下げられた場合、売買やローン契約などの取引がだめになってしまう可能性があります。そのため、事前通知制度は利用できるケースが限られてきます。

本人確認情報作成に必要な書類

 本人確認情報作成に必要な書類は次なようなものです。
 ●有資格者に依頼する場合
  <身分証>
  一号書類
顔写真付きの公的証明書で、住所・氏名・生年月日の記載があるもの。
1点以上提示
・運転免許証、運転経歴証明書
・住民基本台帳カード
・旅券(パスポート)
・在留カード
・特別永住者証明書

  二号書類
顔写真なしの公的証明書で、住所・氏名・生年月日の記載があるもの。
2点以上提示。
・国民健康保険証
・健康保険証
・船員保険証
・介護保険証
・医療受給者証
・後期高齢者医療被保険者証
・健康保険日雇特例被保険者手帳
・国家公務員共済組合員証
・地方公務員共済組合員証
・私立学校教職員共済加入者証
・国民年金手帳
・児童扶養手当証書
・特別児童扶養手当証書
・母子健康手帳
・身体障害者手帳
・精神障害者保健福祉手帳
・療育手帳
・戦傷病者手帳

  三号書類
一号書類が無く、二号書類が1点しかない場合に、二号書類1点に加えて次の書類を1点提示する。
官公庁から発行、発給された書類その他これに準ずるものであって、住所・氏名・生年月日の記載があるもの。

<権利についての確認書類>
・売買契約書
・新築時の請負契約書
・登記原因証明情報
・登記完了証
・遺産分割協議書
・相続関係書類…等

<所有者と不動産の関連についての確認書類>
・固定資産税納税通知書
・公共料金の領収書…等

 ●公証人の認証を受ける場合
公証人役場により異なりますが、
・身分証明書(運転免許証等)
・印鑑証明書
・登記事項証明書
・(登記を司法書士に委任する場合は)委任状
などが挙げられます。

いずれにしても、一度依頼をする司法書士などの有資格者や公証人役場に確認をしてみましょう。

まとめ

 権利証があるのが一番ですが、通常の相続の場合は権利証が無くてもできること、また、権利証が必要な登記に権利証が無かった場合でも手続きをすれば登記ができることがわかりましたね。
 不動産をお持ちの方は、相続が発生する前にきちんと権利証があることを確認しておき、相続人に負担をかけないようにしておいたほうが良いでしょう。

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不動産トラブル弁護士ガイド 編集部

不動産トラブルに関する記事を専門家と連携しながらコラムを執筆中 ぜひ弁護士に相談する際の参考にしてみてください。 今後も不動産に関するお悩みやトラブル解決につながる情報を発信して参ります。

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