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賃貸物件の無断譲渡とは!賠償請求や契約解除はできるのか

更新日:2021年01月19日
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1. 賃貸物件の無断譲渡とは?

貸し出しした部屋や家に、大家さん(以下、貸主)が気付いたら、契約時とは全く別の人が住んでいた。貸主は当然驚きます。しかも事情を聞けば、現在の住民は、最初に賃貸契約をした人(以下、借り主)と入れ替わっているというのです。このようなケースが、賃貸物件の無断譲渡、正確に言うと「賃貸権」の無断譲渡です。

2. 借り主に賠償請求することは可能か

貸主としては、入居審査をしたうえでこの人であれば問題ない、と判断をして部屋を賃貸したはずです。それなのに、勝手に知らない人に賃借権を譲渡されたら困ります。
そのため、民法612条1項の規定により、建物の借り主は、貸主の承諾を得ないまま、勝手に賃借権を他人に譲渡したり、借りている建物を転貸したりすることはできないことになっています。つまり、賃借権の無断譲渡は法律違反です。
そして借り主がこの法律に違反して、貸主の承諾なしに賃借権を譲渡したり、借りている建物を転貸したりした場合には、貸主は無断譲渡・無断転貸を理由として賃貸借契約を解除することができます( 民法612条2項 )。
ただし、無断譲渡・無断転貸があっても、それだけで、必ず賃貸借契約を解除できるとは限りません。そして無断譲渡をしたことを理由にして、借り主に対して損害賠償請求をすることもできないでしょう。ただし、賃料については、借り主が勝手に転貸した場合であっても、その支払いが滞った場合には損害賠償請求ができます。最高裁の判例で「賃貸借契約が解除されていない場合でも、賃貸人は、賃借人から賃料の支払を受けた等特別の事情のない限り、賃借権の無断譲受人である目的物の占有者に対し、賃料相当の損害賠償の請求をすることができる。」としています(最高裁昭和41年10月21日判決)

4. 無断の賃借権譲渡・転貸による解除の制限

3.で書きましたとおり、貸主に無断で賃借権を譲渡したり、転貸したりすることは法律違反です。貸主は無断譲渡・無断転貸を理由として賃貸借契約を解除することができます。ただし、無断譲渡・無断転貸があっても、それだけで、必ず賃貸借契約を解除できるとは限りません。
賃貸借契約は、継続的かつ貸主と借主の信頼関係を基礎とする契約です。そのため、契約を一方的に解除できる場合は非常に限定されています。
最高裁の判例で「賃借人が賃貸人の承諾なく第三者をして賃借物の使用・収益をなさしめた場合でも、賃借人の当該行為を賃貸人に対する背信行為と認めるに足らない特段の事情のあるときは、賃貸人は本条2項により契約を解除することができない。」(最高裁昭和28年9月25日判決)とされています。
「背信行為と認めるに足らない特段の事情」とは、例えば、裁判例では、賃貸物件において、借主が事業を営んでいたところ、税金対策のために法人化して、その会社に借家を使用させた場合には、実際には使用状況に変化がないことなどから、貸主・借主間の信頼関係は破壊されていない、としています。
他には、家族間での賃借権の譲渡も、信頼関係が破壊されていないとして解除が認められない可能性があります。たとえば、夫が借主として賃貸借契約を締結し、夫婦で入居していたところ、夫が亡くなったので妻が借主になった場合は、賃借権の相続であって、譲渡ではありません。賃借権は貸主の承諾とは関係なく相続されますから、この場合には、貸主は無断譲渡として契約を解除することはできません。また夫婦が離婚して、夫から妻への賃借権の譲渡がなされた場合など、使用収益の実態の変化がさほど大きくない場合などが該当します。つまり裁判例からみると、客観的にみて「 貸主と借主との間の信頼関係が破壊された 」と言えるような場合でなければ、賃貸借契約を解除できないとしています。

5. 無催告解除特約がある場合

賃貸借契約は、継続的かつ貸主と借主の信頼関係を基礎とする契約です。そのため、契約を解除できる場合が規定されています。賃貸人と賃借人とが解除に合意した場合(合意解除)のほか、賃借人が目的物を無断転貸・無断賃借権譲渡した場合(民法612条2項)、またはその他債務不履行があった場合(民法541条)には法定解除できます。
この民法541条による債務不履行解除をするには、事前に相手方に対して相当期間を定めて、履行を催告しておかなければならないとされています。つまり賃貸料の不払いがあった場合でも、相当期間を定めて支払うように催告しなければ、契約を解除できません。
そこで実務では、賃貸借契約に際して、債務不履行があった場合に備えて「無催告解除特約」が付されるのが一般的です。
無催告解除特約とは、債務不履行があった場合には、文字どおり民法541条の催告なしで契約を解除できる、とする特約です。特約も契約の一部です。そのため、当事者双方が合意している無催告解除特約があれば、当然、債務不履行の場合には催告なしで解除できるようにも思えます。
一方で賃貸借契約は当事者間の信頼関係を基礎とする継続的契約ですから、無催告で容易に解除できるとすると、相手方に履行の機会を与えないまま、契約解除をできることになってしまい、継続的な契約関係を望んでいた当事者の意思に反するおそれがあります。
そこで、賃貸借契約の解除においては「信頼関係の破壊(背信性)と認めるに足りない特段の事情」がある場合には、契約解除ができないと考えられています。
昭和43年11月21日の最高裁判所第一小法廷での判決では、

家屋の賃貸借契約において,一般に,賃借人が賃料を一箇月分でも滞納したときは催告を要せず契約を解除することができる旨を定めた特約条項は,賃貸借契約が当事者間の信頼関係を基礎とする継続的債権関係であることにかんがみれば,賃料が約定の期日に支払われず,これがため契約を解除するに当たり催告をしなくてもあながち不合理とは認められないような事情が存する場合には,無催告で解除権を行使することが許される旨を定めた約定であると解するのが相当である。

つまり、無催告解除特約がある場合でも、それがあるから当然、無催告解除できるわけではありません。「契約を解除するに当たり催告をしなくてもあながち不合理とは認められないような事情が存する場合」でなければならないのです。

6. 無催告解除特約がない場合

民法541条が規定するとおり、債務不履行による契約解除には、原則は催告が必要です。
5、のとおり、無催告解除特約がある場合ですら「契約を解除するに当たり催告をしなくてもあながち不合理とは認められないような事情」がなければ、無催告解除はできないと考えられています。
それなら無催告解特約が無い場合には、催告なしで契約解除をすることは、全く不可能と思えます。

しかし,昭和27年4月25日に最高裁判所第二小法廷が出した判決では、無催告解除特約が無い場合での無催告解除を認めています。

賃貸借は、当事者相互の信頼関係を基礎とする継続的契約であるから、賃貸借の継続中に、当事者の一方に、その信頼関係を裏切つて、賃貸借関係の継続を著しく困難ならしめるような不信行為のあつた場合には、相手方は、賃貸借を将来に向つて、解除することができるものと解しなければならない、そうして、この場合には民法541条所定の催告は、これを必要としないものと解すべきである

この判例では、無催告解除特約が無い場合でも「信頼関係を裏切つて、賃貸借関係の継続を著しく困難ならしめるような不信行為のあつた場合」があった場合には、無催告で解除できると判断しているのです。

これは5、で示した判決と真っ向から反対するようにみえます。
しかし判決を細かくみていくと、一定の法則がみつかります。

前提:賃貸借契約は、信頼関係が基礎となっている。
信頼関係が著しく損なわれた場合→信頼関係を基礎とする賃貸借契約を維持する必要性が無い→賃貸借契約は解除すべき→無催告解除特約の有無にかかわらず、無催告解除ができる。
信頼関係が著しく損なわれていない場合→信頼関係を基礎とする賃貸借契約はできるだけ存続させるべき→無催告解除特約の有無にかかわらず、簡単に無催告解除はできない。

つまり信頼関係が少しでも残っているのであれば、賃貸借契約はできる限り存続させるべきであり、そうでないのであれば賃貸借契約は解消すべきであるというように最高裁判所は考えているものと思われます。

7. まとめ

自分が貸した物件に、知らない間に、最初の契約者とは別の人が住んでいた。また住宅用の部屋なのにそこで事業を行っていた。いずれも貸す方からすると、驚きますし、信頼を裏切られたような気持になります。できるなら賃貸契約を解除したい、と思うかもしれません。けれども日本の法律では、事情によって賃貸契約は解除ができません。むしろできない方が多いのが実情です。賃貸物件の契約は、互いの信頼関係の上に成り立っています。だからこそ、信頼関係を著しく損なわない限り、その契約を継続させる方向に法律は導いているといえます。賃貸人と賃借人の間に、書類上だけでなく、本当の信頼関係を築けると、このような無断での賃借権の譲渡などは起きないのでしょう。ただし、現代の日本、しかも都会ではこれはかなり難しい課題と言えるでしょう。
自衛するためには、賃貸物件の管理をしっかりとし、何かおかしいと思ったら、写真など記録をとっておくことをおすすめします。その記録の積み重ねによって「信頼関係を著しく損ねた」という証拠になるからです。細かい作業になりますが、証拠を揃えて、いざという時にはその証拠を提出し、話し合いをしましょう。

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不動産トラブル弁護士ガイド 編集部

不動産トラブルに関する記事を専門家と連携しながらコラムを執筆中 ぜひ弁護士に相談する際の参考にしてみてください。 今後も不動産に関するお悩みやトラブル解決につながる情報を発信して参ります。

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