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【弁護士監修】離婚がきっかけの自己破産・住宅ローンどうするの⁉「離婚破産」そうなる前に

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弁護士 新谷 朋弘 アトラス総合法律事務所

更新日:2019年02月25日
離婚がきっかけの自己破産・住宅ローンどうするの⁉「離婚破産」そうなる前にのアイキャッチ

離婚がきっかけで自己破産になる人も少なくないみたいですが、マイホームや住宅ローンについてどうなるか気になる人も多いはず。
まずは離婚に伴う住宅ローンについて任意売却について知ってください。

1.離婚に伴う住宅ローン問題

厚生労働省の発表によると、平成成29年の離婚件数は21万2千件でした。離婚件数は平成8年(1996)に20万件の大台に乗ってから、ずっと20万件台を保っています(平成29年(2017)人口動態統計の年間推計より)。このように、現在では離婚は珍しいことではありません。
離婚する際には、それまで夫婦で助け合って返済していた住宅ローン契約などが足枷となり、様々な問題を引き起こします。特に夫婦で購入し、一緒に住んでいた家をどうするか。これは双方にとって、非常に難しい問題であることは想像できますね。しかもその家が、住宅ローンが完済していればまだよいのですが、住宅ローンが返済途中の場合には、さらにやっかいになります。ローンをどうするか、が大きな問題となるからです。
例えば
・慰謝料や養育費を支払いながらローンの返済ができるのか。
・ローンが残っている家が、高く売れるのか。
・売却してもローンを完済できない場合、残りのローンはどう返済すればよいのか。
・所有名義やローンの名義変更、移転登記は可能なのか。
・夫婦で連帯債務を負っている場合、どう責任分担すればよいのか。
・配偶者やその親族が連帯保証人になっていたら、その責務を外すことは出来るのか?

考え出すと、たくさんの疑問が湧いてくることでしょう。
離婚に伴う住宅ローン問題は、様々な要素が絡み合い、複雑なものとなります。さらに、誰に相談すればいいかも悩みますね。ローンを組んだ銀行か、それとも販売主だった不動産屋か?
このように住宅ローンが残っている家があると、ただでさえ揉めやすい離婚の際に、とても厄介な問題が1つ増えてしまうのです。

2. 住宅ローンを任意売却で返済⁉

住宅ローンの残額(以下、残債)をどうするか、は離婚の際に大きな問題となります。
残債の返済方法は、住宅(不動産)が、いくらぐらいで売却できるか(以下、査定額)によって変わります。
査定額が残債額を上回る(売値>残債)場合には、一般的な不動産売却が可能です。売却をすれば、残債も、名義や連帯保証人が誰であろうと関係なく、その売却代金でローンを一括返済できます。
ただし、実際には、残債よりも高く不動産を売却できるのは非常に稀です。
最も多いパターンは、物件の査定額が残債額を下回ってしまう(売値<残債)場合です。家を売却しても、ローン(残債)を一括返済する見込みが立ちません。そのため、物件は抵当権の抹消ができずに、一般売却することができません。
このように一般売却ができない場合には、「任意売却」という選択肢があります。
任意売却とは、住宅ローンの返済が困難になった場合、その住宅ローンの責任者(以下、債務者)が、銀行など(以下、債権者)に申し立てることで、競売にかけるのを待ってもらい、市場で物件を売却し、ローンの返済にあてるものです。

債権者が物件を競売にかけずに、待ってくれるのか?そうお考えになるかもしれないですね。
確かに、本来であれば債権者は、担保権(抵当権等)の実行により、ローンが滞っている物件をできるだけ早く競売によって売却し、債権を回収する事になります。しかし競売による不動産の売却では、現金化までに時間がかかるうえ、市場価格より安くなるケースが多いなどの理由により、債権者・債務者の調整を行って、市場で物件の売却をして、ローンの返済に充ててもらうのです。

任意売却の前提条件は、まず住宅ローンの滞納が数か月にわたっていること、そして売却をしても住宅ローンを完済できる見込みがないことです。

さらに実際に任意売却を行うには7つの要件があります。

  • 要件1 債権者(銀行等)の合意を得ていること
  • 要件2 税の滞納等で物件が差押さえられていないこと
  • 要件3 売却活動時間が十分に確保されていること
  • 要件4 市場価値のある物件であること
  • 要件5 共有者の同意が得られていること
  • 要件6 連帯保証人の同意が得られていること
  • 要件7 一定額以上の管理費・修繕積立金の滞納がないこと

任意売却の際に誤解されやすい点は、任意売却をして、その売却金を使ってもまだ住宅ローンが残る場合に、その残ったローン分(以下、残債)は帳消しになる、と考えられている点です。任意売却後の残債は、帳消しにはなりません。債務者は少しずつでも、完済するまで支払わなければいけません。ただ、その返済金額や期間が、債務者と債権者の話し合いによって決まる、というだけです。

任意売却の法的な根拠は、実ははっきりしていません。
正確には、自己破産の場合に、破産法第78条に、破産管財人が不動産等を任意売却できる、と規定されているだけです。つまり任意売却は、もともと自己破産を前提とした手続きだったのです。しかし、自己破産をすると、債務者にとっても債権者にとっても、大きな痛手となることから、任意売却が多くなっているのです。

それにしても、なぜ債権者が自己破産を迫らずに、任意売却を待ってくれるようになったのでしょうか。それは日本の経済状況に連動しています。

2008年のリーマンショックによる景気の悪化により、中小企業の倒産などが相次ぎました。そこで2009年に中小企業金融円滑化法(通称モラトリアム法)が成立し、債務の返済が困難な企業などに対して、一定期間の猶予をすることが規定されました。
実はこの法律では、中小企業だけではなく、個人の住宅ローンについても規定されていました。この法律により、金融機関は住宅ローンの返済が困難な債務者に対して、自己破産をさせず、返済を猶予するなどの対応をする義務が生じました。

中小企業金融円滑化法は、2013年3月31日で終了しました。
しかし、金融庁により、中小企業金融円滑化法の終了後も「貸付条件の変更等や円滑な資金供給に努めること」「他の金融機関等と連携し、貸付条件の変更等に努めること」などが金融機関に通達されました。

これにより、各金融機関は返済が困難な債務者に対して、自己破産をさせずに返済を猶予する、という対応を継続することになりました。こうして債権者は、住宅ローンの支払いが苦しくなった顧客に対しても、返済のリスケジュールや猶予、任意売却の対応が可能となったのです。

3.ローンが残っていても売れるのか

まだローンが残っている家を売ることができるのか。それも心配ですね。
一般的にはローンが残っている(残債がある)=抵当権が設定されている、ため、まず債権者に対して残債を完済して、抵当権を抹消してもらわなければ、その物件の売却はできません。
しかし「任意売却」であれば、ローンが残っていても、売却することができます。債権者は、任意売却によって得た金額を残債にあてます。それでも残った残債は、帳消しになるわけではなく、少しずつでも無理のない範囲で債務者が返済していきます。債権者との話し合いで、毎月の返済金額や返済期間を決めていきます。その際に、まれなケースではありますが、債権者によっては、その残債の圧縮にも応じてくれる場合があります。いずれにしても、どのように返済していくかは、債権者と債務者の間での話し合いによって、決めていきます。

このように良いことばかりに見える任意売却ですが、もちろんメリットとデメリットの両面があります。任意売却を競売と比べた場合のメリットとデメリットをみましょう。

メリット

① 競売に比べて高値で売却できる可能性がある
② 相談者の希望(引越し時期・リースバック)が通りやすい場合がある
③ 引越代など手許資金を得やすい場合がある
④ プライバシーが守られる

デメリット

① 債権者や共有者、連帯保証人など利害関係を有する全ての人の同意が必要

4.どこに相談できるのか?

離婚に伴い、住宅ローンが返せないとなった場合には、できるだけ早く専門家に相談することが必要です。競売にかけられる前に手続きをしなければならないからです。
その時には、やはり法律のプロである、弁護士に相談すると良いでしょう。
その理由は、1つ目は任意売却の際には、債務者は債権者との話し合いが必要だからです。競売にかけることを止めてもらう、任意売却後でも残ってしまった残債について、返済期限や期限はどうするか、などの交渉が欠かせないからです。これを普通の人がするのは、かなり難しいことです。弁護士であれば、残債の圧縮が可能か、という踏み込んだ交渉もしてくれます。
2つ目は、離婚した配偶者とのやりとりも、弁護士を介してすることができるからです。離婚する、またはした直後には、お互いに会って話すことが難しい場合も想定されますが、そんな時でも弁護士はあなたの代理として、配偶者との話し合いを行ってくれます。

5. 相談するにはいつのタイミングがいいのか?

では離婚に伴う住宅ローンについて相談するには、いつのタイミングがいいのでしょうか?答えは、できるだけ早いうちに、です。早ければ早いほど、打つ手が多く、より優位に話を進めることができるからです。

6. 住宅ローンを滞納していない初期段階

離婚が具体化して、これから住宅ローンの返済ができない、または難しくなることを想定した相談ができます。この段階でご相談をいただくと、様々な方策を考えることができるので、最も有利な方法をご提案することが可能です。
ただ、「任意売却をしたい」と既に決められている場合には、任意売却の前提が「既にローンを数か月滞納している状態」ですから、この段階では任意売却の手続きはできません。この後、どのようにするかをご説明することになります。

6. 銀行から督促状や催促状が届くようになった段階

この段階では、まだローン契約書で定めた分、分割返済ルールを破っていません。ご相談をいただければ、例えば、ローン返済のリスケジュールや借り換えなど、他の方法の検討や債権者との話し合いが可能な時期でもあります。任意売却をしなくて済む可能性を探すこともできます。

7.期限の利益を損失した段階

期限の利益とは、契約書で交わした住宅ローンの分割返済ルールのことで、借り手(債務者)がこのルールを破れば、期限の利益を損失したとみなし、貸し手(債権者)側は一括返済を求めて来ます。
この段階でご相談をいただくと、残念ながら債務者は元の支払い方法に戻ることは出来ませんし、ローンのリスケジュールや借り換え等、債権者との相談も不可能となってしまいます。今後の解決策としては、一括返済か競売、あるいは任意売却ということになりますので、その点についての対策をご一緒に立て、債権者との話し合いなどを通して、少しでも優位な選択肢を探していくことになります。

8.任意売却をお願いするには

任意売却の検討は、住宅ローンを滞納(おおむね6ケ月が目安)し、期限の利益を損失した段階で始まります。ご相談は住宅ローンの滞納が数か月続いた頃が良いでしょう。
なぜなら、債権者との交渉や、物件の売り出しから、買い主を見つけるまでには、かなりの時間と労力を要するからです。
任意売却の期限は、競売の開札日前日までとなっています。しかし実際の手続きを考えると、期限近くになってから任意売却の全ての手続きをすることは難しいので、余裕を持って取り組むことが大切です。

まとめ

結婚し、2人で幸せに家族を作っていこうと思ったけれども、何かをきっかけにお互いの心がすれ違い、離婚に至ってしまう。残念ですが、誰にでも起こりえることです。そして俗に離婚は結婚の10倍大変、ともいわれます。気持ちだけではなく、離婚に伴う手続きでは、二人で作った財産などの権利をどのように分配するか、という現実的かつ非常にデリケートな問題が山積しているからです。
今回みてきたローンが残っている不動産以外にも、動産類、預貯金などの分配から始まり、子供の親権などを巡って話し合いをしなければなりません。当事者だけで解決しようと努力をすればするほど、余計に感情のこじれや、わだかまりが増えることもあります。そういう時は「法律のプロ」である弁護士に相談しましょう。2人の仲裁をすることも、またあなたの代理人として元配偶者と会うこともしてくれます。弁護士の提案する内容は、第三者の目からみて、法律に基づいた公平なものですから、双方が納得しやすい、という利点があります。ぜひおひとりで抱え込まずに弁護士に相談することをおすすめします。

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