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相続した家を売却する場合は、相続税の取得費加算の特例で節税!

更新日:2020年11月05日
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親が亡くなったので不動産を相続したけれど、相続税の納税のために不動産を売却しようと考えている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
 しかし、不動産を売却すると、相続税とはまた別の税金が課税されてしまいます。
 税金を払うために税金を取られてしまうので負担が大きい!どうにかならないの?

 というわけで、相続した不動産を売却する場合に適用される特例について、詳しくみていきましょう!

節税できるかもしれない!「相続税の取得費加算の特例」

 まず、不動産を売却する際には、原則として売却益に対して譲渡所得税や住民税が課税されます。これらの税金を支払うことにより、手元に残る金額が少なくなるので、これから相続税を納税する相続人は負担が大きくなってしまいます。

 そこで活用したいのが「相続税の取得費加算の特例」です。

「相続税の取得費加算の特例」とは、二重に課税される税金の負担を軽減するための措置で、相続した土地建物などの不動産や株式などの財産を、一定期間内に譲渡した場合に、相続税額のうち一定金額を譲渡資産の取得費に加算することができるというものです。
取得費とは、売却する不動産を購入した当時の金額のことです。
支払った相続税のうち一定金額をこの取得費に加算できるので、譲渡所得金額が減ります。所得税と住民税は譲渡取得金額に対して課税されるので、譲渡所得金額が減ると支払う税金も減る、つまり節税できるということです。

この特例は、譲渡所得のみに適用されます(株式等の譲渡による事業所得及び雑所得については、適用できません)。

●相続税の取得費加算の特例を受ける要件
 ①相続や遺贈により財産を取得した者であること。
②その財産を取得した人に相続税が課税されていること。
③その財産を、相続開始のあった日の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに譲渡していること。
 これらの条件を満たしていれば、被相続人が不動産を所有していた期間の長さは関係ありません。

 ちなみに②についてですが、つまりは「相続税を納税する必要がある相続人」が対象という事になります。例えば配偶者控除によって相続税を納税する必要のない配偶者などは、不動産を取得し売却したとしてもこの特例の対象ではないという事になります。

 また、③について具体的な日付でみてみると、取得した相続財産を相続開始(死亡日)の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに譲渡や売却をしなければなりませんので、例えば、平成29年4月1日が相続開始日だった場合は、相続税の申告期限は(被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内なので)平成30年2月1日となります。よって、譲渡や売却は平成29年4月2日から平成33年2月1日までに行う必要があります。

相続税の取得費加算の特例の計算方法

相続税の取得費加算の特例を受けた場合の譲渡所得の計算式は次のようになります。
  譲渡取得=譲渡収入金額-(取得費+譲渡費用)
  ※譲渡収入金額…不動産の譲渡金額、固定資産税・都市計画税の清算額
  ※取得費…①実額法:不動産購入代金+取得費用-建物の減価償却
       ②概算法:譲渡収入金額×5%
       ①、②のいずれかの大きい金額+相続税の一部
  ※譲渡費用…仲介手数料など、売却するためにかかった費用等

 さて、では「取得費」に加算できる相続税額はどのように計算すればよいのでしょうか。
 その者の相続税額×その者の相続税の課税価格の計算の基礎とされたその譲渡した財産の価額÷(その者の相続税の課税価格+その者の債務控除額)
=取得費に加算する相続税額

 すごくわかりにくいですね。
 例を出して計算してみましょう!
 
 父(被相続人)、母、長男、次男の四人家族で、長男が全てを相続した場合
 相続財産…不動産4,000万円
      預貯金6,000万円
 長男が納めた相続税額…1,200万円
 
 まずは取得費を計算します。
 1,200万円×4,000万円÷(1億円+0円)=480万円

次に譲渡取得を計算します。
先ほどの不動産が購入時の価格が3,500万円で、5,000万円で売れて、仲介手数料が156万円だった場合(取得費の計算には実額法を使用します。)
5,000万円-{(5,000万円-3,500万円+480万円)+150万円}
 =2,870万円

 最後に譲渡所得税を計算します。
 長期譲渡所得税(※)の税率は、所得税15%、住民税5%と、平成49年までは復興特別所得税が2.1%ですので、
 所得税:2,870万円×15%=430.5万円
復興特別所得税:430.5万円×2.1%=9万405円
住民税:2,870万円×5%=143.5万円
となり、譲渡所得税は583万405円となります。

これが、相続税の取得費加算の特例を受けなかった場合、譲渡所得が3,650万円となり、譲渡所得税は745万3,300円となりますので、約162万円の差額が出てしまいます。
相続税の取得費加算の特例を受けることにより、節税ができることがわかりましたね。
 
 ※売却した年の1月1日現在で、所有期間が5年を超える不動産を売った場合長期譲渡所得、所有期間が5年未満の不動産を売った場合、短期譲渡所得として区別します。短期譲渡所得の税率は所得税30%、住民税9%、復興特別所得税2.1%となり、税額が高めです。

もしも相続税の取得費加算の特例の申告期限を過ぎてしまったら…

 もしも相続税の取得費加算の特例の申告期限を過ぎてしまったらどうなってしまうのでしょうか。
 答えは「一日でも期限を過ぎてしまったら特例を受けることはできない」です。
 不動産はすぐに買い手が付くとは限りません。売却や譲渡までにかなりの時間を要してしまう可能性がありますので、特例を受けたい場合は一日も早く対象不動産の売却や譲渡を検討し、対処することが大切です。

不動産の売却で利益が出た場合は確定申告をしないと特例を受けられない!

不動産を売却して利益が出た方で、相続税の取得費加算の特例の適用を受ける場合は、必ず確定申告をしなければなりません。
確定申告には以下のような書類を添付することが必要です。

①相続税申告書の写し(コピー)
   →ただし必要なのは「第1表」、「第11表」、「第11の2表」、「第14表」、「第15表」のコピーです。
②相続財産の取得費に加算される相続税の計算明細書
   →国税庁のホームページからが入手できます。ただし、相続の開始時期によって用紙が違うので注意してください。
③譲渡所得の内訳書や株式等に係る譲渡所得等の金額の計算明細書
   →こちらも国税庁のホームページから入手できます。

 ②の計算明細書は、必要項目を入力することで、取得費に加算される相続税額の計算をすることができます。

●所得税の確定申告をするまでに相続税額が確定しなかった場合
 確定申告が必要な場合は、譲渡や売却をした年の翌年の3月15日までに確定申告を行わなければならないのですが、もしこの確定申告の期限までに、相続税額が確定していなかった場合はどのようにしたら良いのでしょうか。

 例えば10月1日に相続が開始して、12月には相続した不動産が売却できたとします。この場合、相続税の申告期限は“被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内”の、翌年8月2日ですので、確定申告の期間である翌年2月16日から3月15日までの時点では、相続税の計算が終わっていないことも考えられます。

このような場合には、一度、取得費加算の特例を使わずに計算し確定申告をおこなって納税を済ませます。そして相続税の計算が固まった後に再度申告して、内容を修正してもらう手続きを行います。取得費加算の特例が適用された部分だけ、税金が還付されます。
この手続きのことを「更正の請求」と言います。

まとめ

 ここまで色々と国税庁のページなどを見たりしましたが、書いてあることはかなり複雑で、理解するのにかなり頭を使いました。
 実際に業務を行っている税理士さんでも間違いを起こしてしまうほど、この相続税の取得費加算の特例の申請は難しいものなのだそうです。
 できれば自分で全ての処理をするよりも、費用がかかってしまいますがこの件に詳しい税理士さんや弁護士さんに依頼をするほうが、確実に、そして楽に処理をしてもらえるのではないでしょうか。

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不動産トラブル弁護士ガイド 編集部

不動産トラブルに関する記事を専門家と連携しながらコラムを執筆中 ぜひ弁護士に相談する際の参考にしてみてください。 今後も不動産に関するお悩みやトラブル解決につながる情報を発信して参ります。

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