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【弁護士監修】任意売却する際の委任状の書式と注意点

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弁護士 古閑 孝 アドニス法律事務所

更新日:2020年12月15日
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不動産売却の委任状とは

 不動産を売却する際、いろいろな事情から、不動産の持ち主が自身で売却の手続きを行えないというケースがあります。たとえば、病気をしていたり海外に住んでいたりする場合が一番多いでしょう。または、複雑な手続きをするのが苦手とか、たんに忙しいなどさまざまな理由が考えられます。そうした諸般の事情から、本当はすぐにでも売却したいと考えているのに、なかなか行動に移せずそのままになってしまっている場合もあるでしょう。それだと、せっかくの不動産も宝の持ち腐れになってしまいますよね。
 不動産は価値が変動するものですので、ただ放置してしまうのは得策とはいえません。そこでおすすめなのが、信頼のおける誰かに委任してしまう方法です。売却手続き自体をそのまま代理で行ってもらうことになります。委任してしまえば楽ではありますが、不動産の売却は大きな金額が動くことになるので、必要事項をきちんとおさえておかなければなりません。そこで重要な役割を果たすのが、委任状です。

 委任状とは、本来、ある特定の人物に対して一定の事柄をお任せするということを明記した書面のことを指しています。誰が誰に対して、どんな範囲において代理する権利を与えるのかということを明記します。委任状があれば、ここに書かれている範囲のみで権利を行使することができるので、それを超えてはいけないという線引きをすることが可能です。一方、委任状がない場合は、代理を任せるとしてもいったいどこからどこまでが権限となるのかが不明または曖昧になり、さまざまなトラブルを引き起こしてしまうリスクがあります。

 不動産売却をする際にはたくさんの権利問題が絡んできます。のちに裁判になるようなことも少なくありません。そのため、代理を依頼する際には、たとえ気心の知れた仲であってもきちんと委任状を作成しておくべきです。不動産名義の本人から代理人となる人物へ、直接、委任状を作成することが必要となります。委任状は、法律で定められているわけではありませんので、親兄弟に頼むようなときにはつい不要だと考えてしまう面も否めません。しかし、トラブルを回避する目的のためには、必ず用意するべきです。

不動産売却の委任状の「書き方」

 不動産売却に際して用意するべき委任状の書き方には、3つのポイントがあります。順番に解説しますので参考にしてください。

登記簿謄本等を参照すること

 不動産の売却は、一般的には人生でなんども経験するようなことではありません。かかわってくる金額も大きくなりますし、場合によっては複数の人の人生を左右する可能性も秘めている重大なことです。そうした重大事を人に任せるということですから、不動産売却を委任する際は、用心に用心を重ねてあたらなければなりません。
 委任する相手が素人の場合はいうまでもありませんが、もし宅建業者さんなど専門知識を備えた相手でも、同じことです。とくに注意したいのは、対象となる物件について、登記簿どおりに項目があり、物件の特定が曖昧になっていないかどうかという点。これに関しては、確実性を高めるために、登記簿謄本をしっかり参照して正確に書き写すようにしてください。

明記する要素をきちんとおさえること

 委任状に記載するべき事柄を列挙しておきます。

  • 売買物件の表示
  • 売却条件(価格や違約金の額、決済日など)
  • 禁止事項
  • 有効期間
  • 指定流通機構への登録など
  • 業務報告
  • 解除に関する事項
  • 報酬
  • その他の代理権限

 ここに挙げた事柄は、少なくともきちんと盛り込まれるべきです。あとで後悔しないように、細心の注意を払うようにしましょう。

 なお、各項目を書いていくときに気をつけたいのは、できるだけ具体的に明確に記述することです。たとえば、「売買」と表記すると、売ることと買うことの両方を含みこむ表現になりますよね。これだと曖昧になってしまうので、もし売りたいのであれば「売却」という表現を使うなどして、できる限り権限を限定的に絞っていく姿勢が大切です。このように、委任する事項を制限することで、のちにトラブルになるリスクを減じることができます。
 同時に、委任する事項を網羅的にすることも必要です。たとえば、売買に関する権限は与えているのに、登記に関しての権限がなかったとなると、売買契約がスムーズに行われずいろいろな障害が生じてくる可能性があります。代理人をたてるならば、契約に必要な事柄は全て委任できるように、取引が完了するように考慮して記載項目を広めにすることも必要となるのです。
 限定的にすることで曖昧な部分をなくすことと、広めの項目を設定することで網羅性を担保すること。この両方をバランスよく取り入れた委任状が理想的ということになります。

白紙委任をしないこと

 委任状には、上述したような事項を全て記載しておくことが必要です。もし、記載がなかった場合、白紙委任となり、権利を勝手に濫用するなど悪用されてしまうケースもあり得ます。悪用されるだけでなく、白紙委任状を交付した人も責任を問われることがあるので、気をつけましょう。

不動産売却の委任状に「必要なもの」

 不動産売却で委任状を利用する際に必要となるものは、できるだけ早めに準備しておきましょう。必要となるのは、以下の3つの事項です。

  1. 実印
  2. 印鑑証明と住民票
  3. 仲介業者との顔合わせ

実印

 不動産売却の委任状には、押印が必要となります。この押印は、実印であることが必須条件です。これがないと、せっかく書類を作っても事実上、委任状としての効力が発揮されません。しかも、売主側と代理人側、両者ともに実印が必要となります。
 実印は、印鑑登録がなされているハンコのことです。不動産売却の際だけでなく、人生の節目となる多種多様な契約の場面で必要となりますので、早めに用意しておくとよいでしょう。

印鑑証明と住民票

 次に必要となるのは、本人確認をするための印鑑証明書と住民票です。やはりこちらも売主と代理人の両方のものが必要となります。印鑑証明書は、実印登録を行ってから取得します。実印登録には、運転免許証などの身分証明書と、印鑑が必要です。印鑑は、シャチハタが使えませんのでご注意ください。登録は各市町村の役所において行います。住民票は、役所や支所などで簡単に取得できますが、平日しか対応してもらえないなどの問題があるので早めに取得するように心がけましょう。

仲介業者との顔合わせ

 最後に、仲介業者と代理人の顔合わせを行っておくことが望ましいです。もちろん、委任状を持っていたとしても、それだけでは信頼してもらえない可能性があるので、売主と代理人が二人揃って仲介業者と面談しておく機会を設けておくことが必要なのです。

不動産売却の委任状での「注意点」

 不動産売却、とくに任意売却の際には、委任状を渡す相手を慎重に選出するようにしたいものです。一番大切なのは、信頼できる相手かどうかということ。万が一にも、悪用されるリスクがないように、白紙委任にしないことは前述したとおり大前提なのですが、それより以前に信頼できる人物を代理人として選ぶことが重要です。ある程度、買主との交渉も任せることになるので、売主の気持ちをきちんと理解してくれる人であることが望ましいでしょう。
 また、代理人による取引を行いたい旨を、買主にはあらかじめ伝えておくようにしましょう。買主からすれば、自分が取引する相手が本当に代理人なのかどうか、はっきりしなくて不安に思ってしまうかもしれません。買主が確認作業をする必要がないように、売主から伝えておくことをおすすめします。
 最後の注意点としては、やはり委任状には正確な情報を盛り込むように気をつけることが挙げられます。委任状のひな形がいろいろなサイトでダウンロードできますので、これを利用して、漏れがないように作成してください。

任意売却するなら、わからないことは専門家に相談を!

 任意売却で不動産売却を検討しているなら、絶対に間違いがあってはなりませんので、よほどでないかぎりは専門家に相談するのがおすすめです。専門家のなかでも、不動産分野に強い弁護士などに相談するのが理想的です。

まとめ

 任意売却は、競売とは違って仲介業者を介在させることで合理的に不動産を売却できる方法です。とはいえ、手続きに不備があるとせっかくの取引も不成立になってしまいます。大金がかかっているわけですから、委任状の作成には十分な時間をかけて慎重に進めたいものです。正確な委任状を作って代理人を立てれば、安心して不動産の任意売却を任せることができます。委任状の重要性を認識して、慎重に手続きを進めてください。少しでも不安があるときは専門家に委ねることをおすすめします。

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古閑 孝 (弁護士)アドニス法律事務所

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