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【弁護士監修】マンションの老朽化に伴う立ち退き交渉。

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弁護士 新谷 朋弘 アトラス総合法律事務所

更新日:2019年07月09日
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建て替えに重要な法律「区分所有法」って

マンションなどの建物では,1棟の内部の区分けに応じて,各々の部分の所有者(区分所有者)を決めることができます。各々の部分同士は,左右にくっついていたり,上下に乗っかっていたりしますから,一部の区分所有者が勝手に建て替えることは困難です。区分所有法*1は,このような区分所有という特殊な所有形態の建物について,建替えを進めるためにはどうすればよいか等のルールを決めています。

1棟の建物を建て替える場合,基本的には,集会を開いて,区分所有者の5分の4以上の賛成を得なければなりません*2。しかし,負担金を支払えないなどの理由で反対する方もいらっしゃいます。そのため,5分の4という基準を乗り越えることは一筋縄ではいかないでしょう。

仮に,区分所有マンションの建替えが賛成多数で決議されたとしても,反対する方がまだ持っている区分所有権を無視することはできないので,すぐに建替えに着手することはできません。そこで,決定された建替えに参加するかどうかを確認し,参加する旨の回答がないときには,その区分所有権を時価で売り渡すよう請求をすることができます*3。

分譲マンションの立ち退き料

マンションの建替え決議がなされ,これに賛成しなかったために売渡請求を受けた区分所有者は,その専有部分を明け渡さなければなりません*3。この場合,その買取価格は時価が基準となります。
他方,賛成しない区分所有者が多いために建替え決議ができない場合,区分所有権を任意に売却してもらえるか交渉することで,マンションの建替えを可能にする方法が考えられます。ただし,この場合の買取価格は,時価よりも高額になるものと予想されます。

また,時価での売渡請求に応じたとしても,その区分所有者から部屋(専有部分)を借りている人に対しては,無条件に立ち退いてもらえることにはなりません。後述するように,建物賃貸借についての立退きの要求には,正当の事由が必要になります。

賃貸マンションの立ち退き料

建物の賃貸借については,一部の例外を除き,借地借家法(または,旧法である借家法)が適用されます。この法律によると,貸主の事情により借主に立退きを求める(賃貸借契約を解約し,または更新しない)には,原則として正当の事由が必要です。正当の事由があるかどうかは,貸主が立退きを求める理由だけでなく,借主にどういった不都合が生じるか,建物が周囲にどのような影響を持っているか等の事情を総合的にみて判断します。

立退料は,借主に生じる不都合を軽減する意味合いを含みますので,これによって正当の事由を補完することができます。つまり,立退料をいくら支払うかという点も正当の事由の判断要素となります。立退料で正当の事由を補完する場合,少なくとも,引越費用,移転先の家賃との差額,礼金などを考慮した額の支払が必要になると考えられます。

マンションの老朽化での立ち退きは正当事由になるか?

建替えは借主に立ち退いていただかなければできませんし,建替えをしなければ借主や建物の周囲に危険が生じるおそれがあります。そのため,建替えをしなければならないほど建物が老朽化していることは,正当の事由があるとする強い根拠になると考えられています。

もっとも,よほど老朽化が進んでいるケースでなければ,正当の事由があるとは認められにくいものとなります。使用するに堪える程度の老朽化であれば,正当の事由があると認めるのは難しいでしょう。
マンションのケースではありませんが,正当の事由が問題となった例として,築60年を超え、老朽化が著しく、地盤崩壊等の危険性もある建物について,これを取り壊して新しい建物を建てる必要が高いこと,借主は住居としては使用していなかったこと等も考慮して,解約の申入れに正当の事由があると判断されたケースがあります*4。

他方,築56年を経過し,腐食した部分もある老朽建物について,雨漏り等はなく借主の商売のための使用に支障がないこと,借主がそこで何年も商売を続けてきたこと,仮に借主が立ち退くとなると費用や顧客喪失により経済的打撃を受けること等から,借主が建物を使用する必要性が大きいとして,解約の申入れに正当の事由があるとは認められなかったケースもあります*5。
これらのケースにみるように,建物がどれだけ老朽化しているかは,それだけで決定付けられるものではありませんが,正当の事由を認める上で重要な要素になっています。

 前述したような,分譲マンションの区分所有者が部屋(専有部分)を賃貸している場合で,建替え決議がなされたときはどうでしょうか。このとき,区分所有者(貸主)は,買受人に部屋を明け渡さなければなりません。その一方で,賃貸借契約に基づく賃借権は未だ消滅しないので,借主に対し,契約の解約または更新拒絶により立退きを求めることになります。貸主が賛成しないのに建替え決議がなされているのだから,貸主に非はなく,正当の事由があるようにもみえます。しかし,少なくとも現在の法解釈では,建替え決議が正当の事由になるとは考えられていません*6。やはり,実際に建物が老朽化して危険な状態になっているかが重要になります。

わからないことは弁護士に相談

立ち退き交渉の一般的な流れ

まずは,貸主から,借主にその理由や事情を説明します。もちろん,無条件で立ち退いていただくことは難しいので,立退料をお支払いする方向で検討しなければなりませんが,立退きに必要な費用を調査し,貸主から検討するとともに,借主が立ち退くことで経済的損失が生じるようならその部分も考慮した上で立退料を算出することが,円満な解決として必要になるでしょう。

そして,お互いの想定する立退料の額が異なる場合には,金額をある程度譲歩する他,立退きの時期を延伸する,原状回復義務を免責するといった条件を付けるなどして和解を目指すのが一般的です。交渉が決裂した場合は,最終的には裁判により解決することになります。

弁護士に立ち退き交渉について相談するのに必要なものは?(弁護士)

弁護士に相談する際には,権利関係の証明のため,建物の売買や賃貸についての契約書が必要になります。また,建替えの必要性を証明するものとして,建物の診断・検査や建替え費用の見積もりに関する資料も必要です。その他,建物の写真やマンション管理規約など,ケースによって必要となるものもあります。
ちなみに,不動産の登記事項証明書や固定資産税評価証明書といった書類は,弁護士が相談者に代わって取り寄せることができます。

まとめ

立退き交渉は,どちらが悪いことをしたというお話ではなく,お互いに非のないことを前提に進めるものです。そのため,立退料をいくら支払うべきかをはっきりさせることは,当事者のみの交渉では困難で,第三者が介入した方が早い段階での解決を期待できます。
また,立退料がいくらになるかについての絶対的な基準は存在しないので,過去の似たケースと比べて判断しなければなりません。
立退き交渉でお困りの際は,一度,弁護士に相談してみてはいかがでしょうか。

*1「区分所有法」は,「建物の区分所有等に関する法律」の略称です。「マンション法」と略されることもあります。
*2区分所有法第62条。マンションの管理規約によって変わりますが,原則として,区分所有者のうち5分の4以上の人数が賛成すること,かつ,賛成者が専有する部分の床面積の割合が,建物のすべての専有部分の床面積のうち5分の4以上であることが必要となります。
*3売渡請求権の行使によって,区分所有権及び敷地利用権の売買契約が成立することになります(東京地方裁判所判決 平成15年(ワ)第29689号 平成16年7月13日)。
*4東京地方裁判所判決 平成元年(ワ)第12200号・平成2年(ワ)第14606号 平成3年11月26日
*5名古屋地方裁判所判決 平成12年(ワ)第503号 平成14年1月30日
*6『分譲マンションの建替え等の検討状況に関するアンケート調査の結果を踏まえて行ったヒアリング結果の概要について』法務省,国土交通省 http://www.mlit.go.jp/report/press/house06_hh_000035.html (2018年10月22日アクセス)

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