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敷金返還・退去・原状回復でのトラブル解決への全手順

更新日:2020年09月08日
敷金返還・退去・原状回復でのトラブル解決への全手順のアイキャッチ

部屋を借りるときに必要な費用として、敷金があります。
敷金は債務担保としての目的を持つ預け金です。
地域によっては名称が異なることや、敷金の習慣がない場合もあります。
返還が無い場合は、「権利金」「礼金」と同様とされ、前払金として扱われます。

敷金とは?

敷金は部屋を汚す・傷をつけた時のトラブルを避けるため、事前に不動産業者に預けておく金銭です。
借りた部屋から退去するときに、使用状況に応じた原状回復に敷金を利用します。

部屋をキレイに使い清掃を行った場合に、全額返ってくることもある費用です。

しかし、不動産業者としては、返却をしたくない費用と言えます。
そのため、退去時の敷金返済費用が少ない、礼金として扱われ、まったく返却がない場合もあります。
敷金のことは「不動産業者との話し合い」「契約時の契約内容に記載」しておくことが大切です。

また敷金は、万が一のトラブル対策として預かっておく担保としての要素もあります。
そのため「領収書」ではなく「預かり証」が発行されます。
敷金の返還時にも、預けていた金銭が返ってきただけなので「領収書」を発行する必要はありません。
しかし「権利金」や「礼金」として返却がなされないときは「領収書」を発行してもらうことで経費として計上できます。

敷金返却のトラブルを避けるために必要なのは、事前に敷金をついて良く知っておくことです。

負担を必要とする修繕・清掃費用

敷金の満額回収するためには、故意・過失による故障や汚れが無い事です。

  • 椅子や机、棚やタンスなどの家具・家電によるフローリングや畳の傷や汚れ、へこみ
  • 飲み物をこぼすなどにより出来たシミやカビ(掃除でキレイに出来るようなら問題ありません)
  • 壁につけた釘・ネジの跡
  • タバコのヤニによる変色で、掃除でキレイに出来ないもの
  • 台所の油汚れ
  • ペットによる傷や汚れ
  • 鍵穴の破損、鍵の紛失
  • 台所、風呂、トイレなどの水垢・カビ

負担の必要のない修繕・清掃費用

時間の経過することでつく傷や汚れは貸主が負担すべき費用になります。

  • フローリングのワックス跡
  • 畳の変色(破損のない状態)
  • 壁クロスの日焼け
  • テレビ、冷蔵庫の背後の黒ずみ
  • エアコン設置の際の壁の穴
  • タバコのヤニによる変色で、掃除でキレイに出来るもの
  • 画鋲やピンの穴
  • 地震などの天災によるガラスのヒビ
  • 通常の鍵の交換
  • 台所、風呂、トイレなどの水回りの消毒

ハウスクリーニングは、契約時に借主負担とする特約が結ばれていない場合は貸主負担となります。
しかし、借主負担と契約書に明記されていても自分で掃除をきちんとした場合は、ハウスクリーニング費用を負担する必要はありません。
ハウスクリーニングは、次の人が入居するための準備のためで、本来入居者が費用を負担する必要がないためです。

原状回復を原因とする敷金返還トラブルの判例

原状回復とは、居住していた部屋を退去する際に借りた時の状態に復帰する事を言います。
この範囲は、借主が故意・過失・管理や注意を怠る事で通常の使用を超えた場合とします。

1. 原状回復との記載がある場合

・特約記載内容
「借主は貸主に対し、契約終了と同時に原状回復を行い明け渡さなければいけない」

・裁判所判例
一般的な管理・注意をもって常識の範囲で居住していた場合、日常の必然的な汚損・損耗は原状回復の対象になりません。

2. 退去後の覚書に署名をした場合

・契約書記載内容
「賃貸契約を終了したとき、借主は本物件を契約時の原状に復旧させ貸主に明け渡さなければならない」

・明け渡し時の覚書
「契約書条項により、契約当時の状態に復旧させるため実費で清算します。
修復対象:クロス・建具・畳・フロア等の張替費用、設備器具」と記載した覚書を物件受け渡し時に署名押印

・裁判所判例
一般的な居住による損耗を借主負担とするときは、契約書に定め借主の承諾を必要とします。
しかし覚書の契約書条項の「契約時の原状に復旧させ」の言葉は、一般的な利用を超える部分と捉えます。
そのため覚書には、一般的な損耗への費用負担への定めは行われていないことになります。

3. 通常損耗を借主負担と特約で明記した場合

・特約記載内容
「借主は、退去するときには、畳表替え、襖・クロスの張替、クリーニング費用を負担する」
・裁判所判例
特約に記載された内容が、消費者保護の観点よりも優先されるため違法ではありません。

4. 消費者契約法第10条により特約が無効となった場合

・特約記載内容
「未納家賃・共益費・遅延損害金・原状回復に必要な費用、
 そのほか借主が貸主に支払う金銭がある場合は、敷金よりこれを排除した金額を返還する」
・裁判所判例
自然損耗分の原状回復費用は借主に負担させる特約は、
消費者契約法10条(貸主の義務を加重し貸主に不利益を与えてはいけない)により無効となります。

退去から敷金返還までの流れ

1. 引っ越し

不動産管理業者に、賃貸物件の明け渡し1ヵ月前に賃貸借契約の解約通知を送ります。
引越し作業を行い、荷物を運び出します。
部屋の荷物が無くなったら、目立つ汚れ、傷のチェックをしながら部屋の掃除を行います。
キッチン、浴室、洗面所、トイレなどの水回りの掃除は念入りに行って下さい。

2. 退去後点検

管理業者の担当者により、清掃費・修繕費が必要かのチェックが行われます。
入居前から傷や汚れがあった場合には、伝える必要があります。

3. 敷金返還金の見積もり

退去後の点検を元に敷金返還金額の見積もりが送られてきます。
敷金が全額返還される場合は問題ありません。
見積もり金額に納得がいかない場合は、話あいを行いましょう。

4. 敷金が返済されないため、法的手続きを行う。

内容証明郵便を送付する

口頭で話し合っても解決の糸口が見つからない場合
書面に、日時、対応者、話し合いの内容、書面の返答期日を記載します。
書面を、「内容証明郵便」で、不動産会社または貸主に送ります。
「内容証明郵便」が来る事で、貸主が「和解」として敷金を返却することがあります。

※内容証明郵便とは
書面の内容、発送日の郵便局が証明してくれる郵便物で、裁判の際に証拠として利用できます。

「返答がない」「内容を認めない」場合

少額訴訟を起こします。
少額訴訟の訴状が届くことで「和解」として敷金が返却される場合もあります。

※少額訴訟とは
返還額が30万円以内で、1回の審理を終了する裁判

まとめ

退去時の立会いや敷金の返還の代行などを行うサービスがあります。
しかし、敷金の返還請求は紛争性のある訴訟となるため、弁護士以外の者が関与することは禁止されています。
そのため敷金返還の相談・依頼は弁護士に行うことをおすすめします。

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