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大家さんが賃貸契約の解除で気をつけること

更新日:2024年02月08日
大家さんが賃貸契約の解除で気をつけることのアイキャッチ

賃貸アパートなどの退去は、借り主が契約更新時期にあわせて解除するのが通常ですが、実際には契約途中でも、契約書に書かれた一定の条件の元で契約解除をすることで可能です。

契約解除は借り主がオーナー側に連絡をして、契約書に定められた一定の期間を経て契約解除、退去という流れになります。しかし契約期間途中の契約解除は、トラブルが起きやすいのが実情です。今回はこの契約期間途中での契約解除について、トラブル事例をみながら、大家さんが知っておくべき気を付けるポイントについてお知らせいたします。

1.大家さん(貸主)からの契約解除は正当事由が必要

賃貸契約期間中の契約解除は、原則として認められていませんが、契約書に解除権が設定されている場合、大家さん側に契約解除を申し入れて、契約書に書かれた期限や金額などの条件を了承すれば、契約解除が可能になります。

ところが、逆に大家さん側からの契約解除は「正当事由」がなければ認められません。「正当事由」とは、借り主が悪質な家賃の滞納をしていたり、無断で部屋を転貸していたりした場合など、契約書に違反していることが明白な場合です。

それ以外の理由では、仮に契約書に大家さんからの契約解除条件が書かれていても、実際には大家さんからの一方的な契約解除はできません。契約書に定められた、たとえば2ヶ月前とか3ヶ月前などの通知期間を守って解約を申し入れても、大家さんの側からの解約が認められるわけではないのです。

この理由は現在の借地借家法では、借り主の側を手厚く保護しており、大家さんの権利は以前に比べて格段に抑えられているからです。
たまたま借り主が快く契約解除に合意してくれれば幸運です。そうでない場合には、先にあげた借り主側の契約違反行為、または大家さんが自分でそのアパートを使う必要性や、立ち退き料の提供という、いわゆる「正当事由」 が必要になります。

「契約書に書いてあることが一方は守られ、一方は守られないなんて不公平だ」、「契約書が役に立たないなら、何のための契約書だ」、「借り主も契約時に合意しているのに」など、ご不快にお思いの大家さんもいらっしゃるでしょう。ただ現在の借地借家法では、そのように決まっているので、どうすることもできません。

契約期間内の契約解除は、原則、大家さん側から一方的にはできない、と覚えておきましょう。

2. 賃貸契約解除でトラブルになった事例

賃貸借契約を途中で解除する場合には、途中解除による違約金や、原状回復費用、敷金返還といった手続きが必要になり、その際にトラブルが発生することがあります。ここでは、実際に起きた裁判例をご紹介します。

●途中解約の違約金が無効と認められた判例

東京地裁 平成21年(ワ)第41032号敷金返還等請求事件、建物明渡請求事件
【事案の概要】
 建物の賃借人からの敷金返還請求及び違約金条項(賃借人より契約締結後2年未満に解約・解除等がされたときは,賃借人は賃料・共益費の1か月分を支払う旨の条項)に基づき支払った違約金の返還請求。違約金条項が10条により無効となるかが争われた。

【判断の内容】
 本件違約金条項を無効とし、返還請求を認めた。

① 本件においては、賃借人からの解約申し出後2か月で賃貸借契約が終了する旨の特約が別途存在するから、賃貸借契約が2年以内に解約されることにより、賃貸人に特段の不利益があるとは考えられない。

② 本件賃貸借は居住用マンションの賃貸借であるが、その契約時期は、平成20年2月であるところ、一般的には、4月に居住用マンションの新規需要が生じるのであるから、契約後2年間の契約期間に特段の意味はない。
 以上から、消費者の利益を一方的に害するものとして、本件違約金条項は無効というべき。

ここで書かれている「10条」とは消費者契約法の10条で
(消費者の利益を一方的に害する条項の無効)

第十条 消費者の不作為をもって当該消費者が新たな消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたものとみなす条項その他の法令中の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比して消費者の権利を制限し又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第一条第二項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。

引用:消費者契約法

このように、契約書に「賃貸契約の途中解約をする場合には違約金として賃料と共益費の1か月分を支払う」と書かれてあっても、「解約申し出から2ヶ月で賃貸借契約が終了する」という特約が付いていたため、消費者保護の観点から違約金を支払う必要は無いとされています。契約書に賃貸契約解除の条件が書いてあったとしても、たまたま特約があったために、より消費者=借り主に有利な方法を採用するべき、という借り主を保護した判決となりました。

このように大家さんは「契約書に書いてあるから、契約解除の際には違約金を請求できる」と考えても、それ以外に借り主を保護する特約などが存在する場合は、そちらが尊重されることになりますので、注意が必要です。

3. 引渡し時のポイント

契約解除の手続きが終わったら、次のポイントは引き渡し時(退去立ち合い)です。これはだいたい借り主の引っ越し当日、引っ越し作業が終了した時間に行われます。引き渡しは通常管理会社が立ち会い、まず借り主から鍵を返却してもらい、その後借り主と管理会社双方で、室内の床・壁・柱などの傷み具合や、傷が故意につけられたものか、また貸す前には設置していなかったエアコンなどを勝手につけていないか、を1つ1つ確認します。

退去時の注意点については、賃貸契約書に書いてありますが、ほとんどの場合、借り主は、部屋を返却する際に「原状に回復して」明け渡さならければならない、とされています。

では「原状回復」とはどこまでを指すのでしょうか。

この点についてトラブルが絶えないため、国土交通省は「原状回復」の内容を明確化したガイドラインを発表しています。

それによると、原状回復とは、賃借人が借りた当時の状態に戻すものではない、ことが明確に書かれています。原状回復とは「賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失。善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧すること」と定義しています。

そして具体例を下記のとおりとしています。

<大家の負担となるもの>

通常の住まい方で

発生するもの

●家具の設置による床・カーペットのへこみ、設置跡

●テレビ・冷蔵庫等の後部壁面の黒ずみ(電気ヤケ)

●壁に貼ったポスター等によるクロスの変色、日照など自然現象によるクロス・畳の変色、フローリングの色落ち

●賃借人所有のエアコン設置による壁のビス穴・跡

●下地ボードの張替えが不要である程度の画鋲・ピンの穴

●設備・機器の故障・使用不能(機器の寿命によるもの)

建物の構造により

発生するもの

●構造的な欠陥により発生した畳の変色、フローリングの色落ち、網入りガラスの亀裂
次の入居者確保の

ために行うもの

●特に破損等していないものの、次の入居者を確保するために行う畳の裏返し・表替え、網戸の交換、浴槽・風呂釜等の取替え、破損・紛失していない場合の鍵の取替え

●フローリングのワックスがけ、台所・トイレの消毒、賃借人が通常の清掃を行っている場合の専門業者による全体のハウスクリーニング、エアコン内部の洗浄

<借り主の負担となるもの>

手入れを怠ったもの
用法違反不注意によるもの
通常の使用とはいえないもの
●飲みこぼし等の手入れ不足によるカーペットのシミ、冷蔵庫下のサビを放置した床の汚損、引越作業等で生じた引っかきキズ、賃借人の不注意によるフローリングの色落ち

●日常の清掃を怠ったため付着した台所のスス・油、結露を放置して拡大したカビ・シミ、クーラーからの水漏れを賃借人が放置して発生した壁等の腐食、喫煙によるヤニ等でクロスが変色したり臭いが付着している場合、重量物をかけるためにあけた壁等の釘穴・ビスで下地ボードの張替えが必要なもの、天井に直接付けた照明器具の跡、落書き等故意による毀損

●ペットにより柱等にキズが生じ、または臭いが付着している場合

●風呂・トイレ等の水垢、カビ等、日常の不適切な手入れもしくは用法違反による設備の毀損、鍵の紛失または破損による取替え、戸建て住宅の庭に生い茂った雑草の除去

出典:国土交通省住宅局平成23年8月『原状回復をめぐるトラブルとガイドライン』    http://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/torikumi/honbun2.pdf
一般社団法人全国不動産管理業協会 http://www.chinkan.jp/live/recovery

このガイドラインに基づき、室内を点検して、修復費がどちらの負担になるかをその場で明確にしておくことがポイントです。そのためには双方が同じチェックシートを使い、その内容に納得した、という署名をしたものを保存することが大切です。口頭だけでは後に「言った」「言わない」という争いに発展しかねないからです。

また鍵の返却についても、部屋の鍵だけでなく、窓やセキュリティカードなどがある場合には、それらを必ず返却してもらうように気を付けることも必要です。

4. トラブルになる前に弁護士に相談しよう

ここまで見てきたとおり、賃貸物件の契約解除や退去時には、借り主と大家さんの間でトラブルに発展する可能性が多くあります。
例えば借り主都合の途中契約解除の場合、賃貸契約書に記載されている内容だけでなく、特約がついていないかを確認して、違約金を請求できるのかを調べなければなりません。また一方で大家さんからの契約解約には「正当な事由」が必要です。何が「正当な事由」にあたるかの判断がつきにくい場合もあるでしょう。

さらに退去時の「原状回復」について、借り主と大家さんの間で認識がずれている、などのトラブルの種は、あちこちにあります。

大家さんとしては管理会社の言うことに、ただ従っていればいいのだろうか、と迷う時もあるでしょう。このように納得がいかない場合には、管理会社だけでなく、専門家に相談をしましょう。この場合の専門家は、法律問題のプロである弁護士が適任です。

借地借家法、消費者契約法、国土交通省のガイドラインなど、法的な内容は、やはり弁護士の領域です。納得して契約解除に応じ、退去後の「原状回復」費用の分担をするためにも、小さな疑問点でも、弁護士に相談しましょう。

特に「原状回復」については、大きな金額が動く場合もありますので、借り主もできるだけ負担したくないのが本音です。曖昧にせずに、疑問点が発生する都度、専門家の意見を聞きましょう。それがトラブルを未然に防止することにつながります。

まとめ:賃貸契約に関する困りごとは弁護士へ相談を

賃貸アパートや物件を持っている場合、契約期間内の契約解除は、見込み賃貸料収入が減ることにつながるので、大家さんにとっては痛手です。

しかし残念ながら、現在の日本の法律は、借り主に有利なようにできています。何のための契約書だ、と憤慨したいお気持ちもあることでしょう。

こうした不満からトラブルが発生することを避けるためにも、少しでも納得できない、了承しかねる、と思うことがあったら、そのままにせずに、弁護士に相談しましょう。

法律のプロである弁護士なら、個々の状況に合わせて相談に乗ってくれるだけでなく、不動産関係で起きやすいトラブルを未然に防いでくれます。

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