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大家さんは簡単には家賃の値上げはできない!?

更新日:2019年02月26日
大家さんは簡単には家賃の値上げはできない!?のアイキャッチ

自分が持っているアパートなどを貸し出している大家さんにとって家賃は収入ですので非常に重要ですよね。
 その家賃が相場よりもかなり安かった場合はどうでしょうか?
 普通は相場に合う家賃になるように値上げをしたいと考えると思います。
 不動産の相場はその土地の変化に伴って変わってきますので、所有している不動産がある土地が再開発されたり人気のエリアになったりすれば、その土地の家賃の相場も上がってきます。
 そのため、家賃も不動産の築年数が上がれば必然的に下がるというわけではありません。

 では家賃の値上げは「来月から値上げします」などと簡単に進めることができるのでしょうか?

家賃の値上げは簡単ではない!

 家賃の値上げをするには、借地借家法によって次のいずれかの条件を満たす必要があります。

① 土地または建物に対する租税などの増減により、土地または建物の価格が上昇または低下したことによって家賃が不相当になった場合

② 経済事情の変動があったため現在の家賃が不相当になった場合

③ 近隣の類似物件の家賃相場と比較して不相当になった場合

こちらの内容については後で詳しくみていきますが、この条件を満たしていない場合は家賃の値上げ交渉をしても拒否されてしまいます。仮に賃貸借契約書に「家賃を増額する」という契約があったとしても、この条件に当てはまらなければあまり効果はありません。
 また、一定期間家賃を値下げするという特約を結んでいる場合も値上げをすることはできません。

 ひとまずは条件を満たすところからになりますので、値上げは簡単ではありません。
 また、値上げをすることによって現在の入居者からは反発が起こる可能性が高く、引っ越しをされてしまって家賃収入が無くなったり、場合によっては訴訟を起こされる可能性もあります。
 安い賃料が魅力だと入居を検討していた方も、値上げをしたことによって魅力を感じなくなり、入居を見送ってしまっている可能性もあります。

 とはいえ、家賃は大家さんにとっては重要な問題ですので、よほどの慈善事業でない限りは収入を増やしたいと考えるのが普通です。
 そのためには家賃の値上げを入居者に納得してもらえるようにしなければなりません。
 納得してもらえる交渉をするためには次のような点に注意しておきましょう。
  ・家賃の値上げの理由について丁寧に説明をする(借主からしたら家賃の増額は生活にダイレクトに響いてくるので、反発が予想される為)
  ・一度で納得してもらえない場合は納得してもらえるまで数回にわたって話し合いをする
  ・家賃の値上げ交渉は契約更新のタイミングで行う
  ・入居者との関係を良い状態にしておく(優しい大家さんだと値上げ交渉をされた時に真っ向から拒否はしにくくなります)

大家さんからの一方的な解約はできない

 例えば現在貸し出している家に自分の子供を住ませたい、管理が難しくなってきたので売却したい、値上げ交渉に応じてもらえないから出て行ってほしいなど、大家さん側から解約をしたくなるケースもあるかと思います。
 しかし、大家さん側からの一方的な賃貸借契約の解約はできません。
 賃貸借契約の解約には大家さんと入居者の合意が必要なのです。
 
 大家さん側からの賃貸借契約の解約ができないのには理由があります。
 賃貸借契約の多くは「期間の定め」があります。例えば「契約期間は平成28年4月1日から平成30年3月31日まで」の2年間の契約などです。この期間中に大家さんに出て行けと言われたら2年間住めると思っていた入居者は困りますし、逆に入居者が2年間住んでくれると思っていたのに急に出て行かれた大家さんも困ります。
 そのため、どうしても解約をしたい場合は双方の合意が必要だというわけです。
 
 では例えば急な転勤が決まって退去しなければならなくなった入居者が契約期間内に契約を解約しなければならなくなった場合に大家さんがそれを拒んだ場合は出ていけなくなるのか?という問題ですが、賃貸借契約には「期間内解約の定め」が定められているのが通常です。「退去の〇ヶ月前までに告知をすれば契約期間内であっても解約をすることができる」というものです。(契約によってはその代わりに〇ヶ月分の家賃を支払うという契約もあります。)
 そのため入居者は、この定めにそって自由に期間内に契約解除をすることができます。

 なぜここでわざわざ入居者と強調したのかというと、この期間内解約の定めがあったからと言って、大家さんがこの期間内契約の定めを使って入居者との契約解除をすることはできないからです。
 それは「借地借家法」によって借主が守られているからです。
 大家さんが賃貸借契約の契約期間内に契約解除をするには、次の条件を満たすこと必要です。

1 契約期間満了の1年前から6ヶ月前までに更新拒絶の通知を出すこと(契約期間の定めがある場合)
2 解約の申し入れから6ヶ月を経過していること(契約期間の定めがない場合)
3 借地借家法に定める正当事由があること(※)
4 上記の要件を満たして、それでも借主が引き続き建物を使用している場合に遅滞なく異議を述べること

※裁判所の判断によりますが、判例によると耐震性の低さにより取り壊しをしなければならない場合や、犯罪(振り込め詐欺の拠点にされた)に使われたなどが挙げられています。
賃貸借契約書に期間内解約を認める条項を含んでいたとしても、借地借家法に違反するので認められません。

このように、大家さんからの家賃の値上げだけでなく契約の期間内解約もかなり難しくなっています。

値上げ交渉の条件の詳細

 さて、では話を値上げ交渉に戻して、先ほど挙げた家賃の値上げの条件について詳しくみていきましょう。
 
 ① 土地または建物に対する租税などの増減により、土地または建物の価格が上昇または低下したことによって家賃が不相当になった場合
   例えば固定資産税などは、土地や建物の評価額によって異なります。
   そのため、所有する不動産の周辺の土地開発が進み評価額が上がった場合には、固定資産税も当然増額します。
   そういった理由で税金の負担が増加した場合などは家賃の値上げの正当な理由となります。
   ちなみに消費税の増税が正当な理由になるかどうかについては、基本的には正当な理由にはならないようですが、「増税の際には家賃の値上げをする」といった特約を結んでいる場合には値上げができる可能性があります。

   また、周辺の土地の環境が良くなった場合や建物そのものの設備投資によって土地や建物の価値が上がった場合に周辺の家賃相場と比較して家賃が安かった場合も正当な理由となります。

② 経済事情の変動があったため現在の家賃が不相当になった場合
  物価の上昇(インフレ)や平均賃金の上昇があった場合も正当な理由となります。

③ 近隣の類似物件の家賃相場と比較して不相当になった場合
   地価の上昇などの理由によって近隣の類似物件と比較した時に自分の賃貸物件の家賃が安くなった場合なども正当な理由となります。

 しかしこれらの条件に当てはまったとは言っても、一方的に家賃の値上げをすることはできません。やはり双方の合意が必要なのです。先ほど挙げたポイントを抑えて値上げ交渉を行っていきましょう。

どうしても納得してもらえない場合

 それでもどうしても、家賃の値上げをされたら困るので値上げに応じないという入居者もいることと思います。
 しかし強制的に家賃の値上げをすることができない以上は話し合いを続けていくしかありません。きちんと値上げの理由があること、アパートに住んでいる入居者全員に協力してもらっていること、特定の入居者だけ異なる家賃にすることはできないことなどを説明して、感情的にならないように“お願い”をしていきましょう。

 お願いしてもどうしようもない場合は、法的な手続きを行うことになります。
 まずは裁判所にて調停(話し合い)を行います。
 大家さんと入居者以外の第三者(調停員など)が入ることによって、話し合いがまとまる可能性があります。
 調停を行っても話し合いがまとまらない場合は訴訟を起こすことになります。
 しかし訴訟を起こすことはかなり稀なことのようです。家賃の値上げと訴訟にかかる費用を考慮した場合に、訴訟を起こす費用のほうが高額になることが多いことなどが理由に挙げられます。
 できるだけ話し合いで合意ができるような流れになるといいですね。

トラブルになる前に弁護士に相談しよう

 家賃の値上げは拒否される可能性も高く、お金に関わることなのでトラブルになってしまうことも懸念されます。
 まずは値上げの正当な理由に該当するか、退去してほしい場合はそれが可能か、なかなか自分では判断が付かないことも多いのではないでしょうか。
 不動産に関する事には法律が多くからんできます。
 値上げを考えている場合は、ひとまず法律のプロである弁護士に相談してみてはいかがでしょうか。初回の相談を無料で行っている事務所もあります。
 不動産に強い弁護士に相談することによって、値上げ交渉がスムーズに進む可能性があります。

まとめ

 大家さんが一方的に家賃の値上げをすることはできません。
 家賃の値上げをするには正当な理由が必要で、そのうえで入居者と双方の合意が必要です。
 また、大家さんからの一方的な賃貸借契約の解約も簡単にはできません。借地借家法によって借主は手厚く保護されていますので、難しい条件を満たしてようやく解約をすることができるようになります。
 どうしても家賃の値上げに納得してもらえない場合は、裁判所にて調停や訴訟を起こす必要がありますが、費用のことを考えたら訴訟まで起こすケースはごく稀です。
 そのため、スムーズに話し合いを進めていきたい場合はひとまず弁護士などに相談してみることをおすすめいたします。

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不動産トラブル弁護士ガイド 編集部

不動産トラブルに関する記事を専門家と連携しながらコラムを執筆中 ぜひ弁護士に相談する際の参考にしてみてください。 今後も不動産に関するお悩みやトラブル解決につながる情報を発信して参ります。

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